日々の名残り~The Remains of the Days~

パロットで彩られる世界

KAZ8514_wallcity_TP_V.jpg
1.「いじめはいけないことだけれど、いじめられる側にも原因があると思います。」彼女はそれがまるで間違いのない正論のように自信ありげに発言した。
まるで、いじめという問題が地球の裏側で起きているまるで自分とは縁もゆかりもない問題であるかのように。
ほかのクラスメイトはクラスのリーダー格である彼女の発言を肯定するような態度を見せ誰も決して反論を言わない。
その中には、きっと心の中では「加害者の言い訳だ。」という反感を持ったり、「自分のやってる事を正当化する自己弁護である。罪の意識はないのか?」と思っている子もいるだろう。
それでも、決してその心の内を示そうとはしない。
そんな発言をすれば、自分が彼女たちのいじめの標的にされることが分かりきっているからだ。
先生がやんわりと彼女の意見を窘めるようなことを言い、彼女は心からそう思ってはいないだろうが「はい。そうですね。」と素直な模範生のように先生の言葉を受け止めている。
先生も彼女の態度に満足したのか。それ以上、追及するどころか自分の職務を全うしたかのように満足気であった。

いじめによる自殺が昨今急増したことにより、文部科学省や教育委員会がそのような事件がどこかで起きた場合、クラスでいじめ問題を議題にした討論会を開くことを学校側に促し、子供たちにいじめについて深く考える機会を与え、同じような悲劇を生まないようにとこの討論会は始まった。
だが、決していじめの数もいじめによる自殺も減少傾向にはないのが現状だ。
いじめっこの多くは、クラスの中で比較的ヒエラルキーが高く発言力があり、その上、教師の評価が高い生徒が多いそうだ。
一方で、私のようないじめられる側の人間は、どこか被虐的で自己主張が得意ではない人種であることが多い。
結果として、このような公の場は、もちろん、親や教師に助けを求めることもできずただ耐える事しかできない。
ただ耐えるというその選択が自分をどんどん追い詰めていくことが分かっていてもその選択以外を選ぶことができないのだ。
今日の討論会でも私は一言も喋らず、ただ周りの意見に同調し、ただ自分の存在を消している。
先生一人だけが満足そうな様子でこの会は閉じられた。
この人に私の今の状況を訴えたところで、現在の状況が良くなるとは到底思えないと改めて確信した。
かといって、うちの母はなぜかいじめ関連のニュースやドラマを毛嫌いし、その話題が出るとなんだか不機嫌になる。
そして、決まって私に「いじめだけは絶対だめ。」と私にあまり見せることのない険しい顔で言う。
過去に何かトラウマでもあるのだろうか?
だから、私の家ではいじめの話はご法度だ。
母は、昔高校の教員をしていたそうだが、学校行事にもあまり積極的に参加しようとしないから不思議だ。

2.「所詮世の中は弱肉強食である。弱いものは淘汰され、強いものだけが生き残る。」
弱肉強食が、世の常であるのなら、きっと今頃、サバンナにはシマウマやガゼルはおらず、ライオンやチーターばかりとなっているだろう。
いつから私は、弱者にカテゴライズされたのであろう?
産まれた時からだろうか?それとも自我に目覚めた時からか?それとも、生まれる前からそうなるように決められ世に生を受けたのだろうか?
きっと違う。そのものが、弱者と認識されるまたは、認識するのは自分よりも強い者の標的となった瞬間からだろう。
動物園で生まれ育ち、そして動物園で生涯を終えるシマウマはきっと自分がライオンに狙われその空腹を満たす存在であると気づかずに生涯を終えるだろう。
一方で、サバンナで生まれ育ったシマウマはきっと生まれながらに自分がライオンに命を狙われる存在であると理解しているに違いない。
私はどうだろうか・・・?
いつから同い年で同じ立場にあるはずの彼女らに怯え、彼女らの行う蛮行で下劣な行為にただひたすら耐え、見えない終わりを・・・灰色の学校生活を当たり前のように過ごすようになったのだろうか。
私がこの学校を卒業するまで、きっと今の現状は変わらないだろう。

3.帰宅部の私は、一緒に帰るクラスメイトもなく、いい思い出が一つもないこの閉鎖された空間を早く抜け出したくて放課後になると一人帰路に着く。
私の楽しみといえば、読書くらいだ。
本を読んでいる間は、自分がその物語の主人公になったような気分に浸り、自分の今置かれた状況を忘れられる。
私が読む本は、俗にライトノベルと呼ばれるジャンルである。
特に異世界に転生する話ばかり読んでいる。
夜眠りにつく前に起きたら今の世界とはまったく違う世界に行けたらと毎日願い眠りにつく。
きっと、こんな他人任せな解決法にしか縋ろうとしないから私の現状は変わらないのだろう。

一世代前は、異世界でなく未来や宇宙に行く話が多かったそうだが、科学の進歩によりロボットや人工知能、医療の発達など多くのものが実現したり、多くの惑星の実態が分かったことにより未来や周辺の惑星に希望を持てなくなった結果今とはまったく別の次元、世界へのみ望みを持つものが増え、その結果創作作品の多くは、異世界に行く話ばかりになったのかもしれない。

きっと不老不死やロボットが人間の代わりに世の中に溢れるのも時間の問題だ。

帰路の途中、いつも立ち寄る本屋へ寄った。
自動ドアを抜けると一番目立つ位置に今日発売されたばかりと思われる週刊誌が並んでいた。
どの雑誌も「いじめ撲滅組織『インコの会』政府が容認。いじめ撲滅法成立。」の見出しばかりだ。
どうやら新学期に合わせていじめ問題を0にする画期的なシステムが導入されるらしい。
インコの会とは、世界的に有名な科学者である柳田教授という科学者を中心とした会で、実際に日本と同じく、いじめの多い国である中国で驚異的な成果を出し、日本でも彼にいじめ問題根絶の白羽の矢が立った。
週刊誌の表紙に写る柳田教授は実年齢よりもだいぶ若く見える。
なぜ『インコの会』というのかは、インコという動物は多少の優劣、順位付けはあるもののタテ社会がなく均等なヨコ社会であり、多くの動物に見られる弱者・強者を決めることのない動物であるのに由来するらしい。
それは、ペットの代表格である犬と違い、飼い主すらも同格扱いするそうだ。

あんなに人口の多い国でほとんどいじめがなくなったとは信じられないと思った。
中国といえば、この間の歴史の授業で中国の唐の時代の話の途中、先生が「中国では、纏足(てんそく)と呼ばれる女の足を幼児期より布を巻かせ、足が大きくならないようにするという風習があってな。その頃の中国では、足の小さい女性が美しいとされ、無理やり成長を止め奇形となった足に小さく美しく施された靴を履かせ、その美しさや歩き方などの仕草を楽しんだそうだ。」と話していたことを思い出し、あの話を聞いた時の恐ろしさを思い出し、おもわず身震いした。
同時にこのよくわからない団体も法律もきっと私の今の現状を救ってはくれないだろうと思った。

4.私の学校では、残念ながらクラス替えがない。新学期となり、始業式の日、新しい教室に入ってもまったく新鮮味を感じない。
また、同じ苦痛を一年間味わなければいけないことに去年ほど嫌悪感を感じていなかった。
人の慣れとは怖いものだ。
私は、今の現状が変わることを諦めていたのかもしれない。

私へのいじめが始まったのは、入学式が終わり、ちょうど今校庭を彩っている桜が散り去った頃からだ。
積極的に話に入れず、スタートから出遅れた私はいつも休み時間することもなく毎日本を読んでいた。
何度か、初対面のクラスメイトが話しかけてくれたが、話を膨らますことができず、上手く応対できないうちにすぐにクラス中心を牛耳るグループに目を付けられた。
最初は、軽く茶化される程度だったが、ただ薄ら笑いで応え俯く私の反応を見て私へのいじめはエスカレートしていった。
どこからがいじめで、どこまでがただの遊び、戯れなのかはやられた人間しかわからない。
ただ、少なくとも痣が残るほどの暴力を受ける、私物を隠される、いじめの主犯格以外に無視される。掲示板やLINEのグループで私の悪口や謂れのない噂を流される。
私が受けたこれらの行為は決して遊びでは済まされないのではないだろうか?
彼女があのとき言った。「いじめられる側にも原因がある。」と、私にはこんな行為をされるなければいけないほど、なにか自分では気づいていない落ち度があるのだろうか?
桜色に色づく校庭の景色と活気に満ちた新年度の校舎内の空気の中で、私の周りだけがひどくどんよりと重い空気と色彩を持たない酷く色あせた世界のように感じた。

5.2年生の新学期、クラスに一つだけ変化があった。
新学期に合わせて、転校生が私のクラスに転入してきたのだ。
名前は、虹村玲子。
彼女は、透き通るような白い肌にその白をより際立たせるショートボブの黒い髪。
物静かで、なんだか人を寄せつけない雰囲気を持ち、すべてを見透かしたような眼をしてほとんど感情を出さない。
彼女はまるで人形か、ロボットのような精密機械や作り物のような美しさがあった。
クラスの中心グループを無下に扱い誰も寄せ付けないような態度を示した。
そして、なぜか臆することなくクラス中から空気のように扱われている私には普通に接してくれた。
そんな虹村さんを彼女たちが気に食わないと思うのは当然の流れだった。
そして、虹村さんは私の身代わりのようにいじめの標的にされた。
子供が新しいおもちゃを買ってもらい、いつも遊んでいたお気に入りのおもちゃをおもちゃ箱の奥底に忘れたようにしまい込むかのように私へのいじめはぱたりと止んだ。
新しいおもちゃとして選ばれた虹村さんはまるで感情のないかロボットのように彼女たちの低俗な蛮行、陰湿な行為を受けても平然としていた。
虹村さんのまったく彼女たちの行為を異に返さない反応を見て、残虐な彼女たちの行為は、さらにエスカレートしていった。
私への行為はほとんどなくなったが、相変わらず私はクラスでいない存在かのように扱われている。
そして、私の代わりに標的となった虹村さんを見るたびに私の弱い心は自分が同じことをされていたときよりも締めつけられた。
彼女たちは、誰でも良かったんだ・・・。
私が受けた耐え忍んできた数々の行為は、別に私でなくてはならないわけではなかったと思うとただひたすら耐え続けた自分の行為が何の意味もなく感じ、自分のしてきたことはまるで空虚なものだと改めて突き付けられたようだった。
同時にこのまま、虹村さんだけを生贄のようにして自分が何食わぬ顔をして過ごすというのは、彼女たちと同じような下劣な存在になってしまうように思えた。
「虹村さんを一人にはしない!」そう決意した。

学校が帰り、そんなことを考えていると家に着いた。
玄関を開け中に入ると夕食の準備が終わったのか、ダイニングのテーブルに座り夕方のニュースを母が見ていた。
テレビからは、先日可決されたいじめ撲滅法案の特集が流れていた。
私に気づいたようで、母がなぜだがすぐにチャンネルを変え、私に「おかえり。」と声を掛けた。

6.あの日、決意して私はすぐに行動した。
異世界にでも行かなければ、変われないと思っていたが、ない勇気を振り絞り虹村さんに声を掛け、学校にいる間できるだけ一緒に行動した。
彼女はいつも「私には関わらないでほしい。」「ほっといて!」「自分の事だけを考えたら?」といつもの変わらぬ表情のない顔で起伏のないトーンで言った。
それでも、私は彼女と行動を共にした。、
なし崩しのような形で、彼女は私を受け入れてくれた。
中学に入って初めての友達ができた。
少しでも仲良くなりたいと彼女と色違いの見る角度によっては不細工に見える猫のぬいぐるみキーホルダーを2つ買って彼女にひとつあげた。
きっと、受け取ってはくれないだろうなと思っていたが、彼女は当然のように相変わらずの無表情で通学バックにそのお揃いのキーホルダーを付けてくれた。
灰色だった私の学校生活がほんのりだが色づいた気がした。

彼女たちの行為は相変わらずだが、一年前よりも辛くない。
虹村さんは相変わらずまったく意に介さない様子だ。
虹村さんは、ほとんど自分の事を話してくれない。
私は、彼女について知りたいことがたくさんある。
学校では、いつも一緒にいるのが当たり前になったが、学校外の虹村さんを私は知らない。
彼女はなぜか携帯を所持していなかった。
前の学校の事や休日何をしているのか、好きな本は何かなど聞きたいことは山済みであった。
特に彼女は、夏でも黒いタイツを着用しているのがずっと気になっていたが、その話題に触れてしまうと今まで積み上げてきたものが一瞬で崩れ落ちてしまうような気がして口に出せずにいる。

7.3年生に上がり夏が過ぎると受験を意識してか、彼女たちの行為は表立ってはなくなった。
その代わり、受験のストレスのせいか陰湿な行為だけかエスカレートしていった。
特に虹村さんへのネットやSNSを介した罵詈雑言、誹謗中傷は見るに堪えないものだった。
何もできない自分に腹が立った。
それでも、虹村さんの態度は変わらなかった。
早く時が流れ、この閉鎖された環境を離れたいと只々私は願った。
3年間、模範生の仮面を被り続けた彼女たちは県内でも有数の進学校への進学がほぼ確定しているようなのがより私の感情を逆なでた。
きっと彼女たちはこの後の人生も上手く仮面を被り、裏では他人を陥れ、弱いものをいたぶり自分たちのストレス発散や虚栄心の為に誰かを虐げ狡猾に生きていくのだろう。
世の中に正義はない。世の中は不平等だ。と私は思わずにはいられなかった。
卒業式を終え、彼女の正体を知るあの日まで少なくとも私はそう思っていた。

8.私はなんとか県内でちょうど中間ぐらいの偏差値の高校に合格した。
そして、やはり彼女たちは志望校に受かり、おそらく今後も改心することなく、数年後にはきっと私や虹村さんの事を昔の懐かしい思い出話を語るように笑い話として話すであろうレールに乗ったのだ。
卒業式の一か月前虹村さんは学校に来なくなった。
「親と夜逃げした。」「援交がばれて高校の内定が取り消しになった。」「妊娠して学校をやめた。」など学校では根も葉もない色々な噂が飛び交った。
卒業式はまったく感動もなく、まるで長い服役が終わった囚人のような気分だった。
結局、最後まで彼女たちの行為に気づくことのなかった担任は涙を流しながらなんだか自分に酔いしれるような演説をしていたが一言も心には残らないひどく薄っぺらい言葉の羅列に聴こえた。
そして、一か月前から登校していない虹村さんはもちろん、なぜか私たちをいじめ続けた彼女たちの姿がなく不思議に思った。

式を終えた次の日、なんだかこのまま虹村さんに一生会えないような気持ちで胸がざわつき、もう二度と訪れることはないと昨日校門を出るときに思った学校へ向かった。
担任に頼み込んで、虹村さんの住所を聞き出した。
住所を聞いて驚いた。担任が教えてくれた住所は電車で、一時間半かかるところだったからだ。
財布の中身を確認した。幸い親戚縁者からの卒業祝いで財布にはいつもよりも現金が入っていた。
急いで電車に乗った。電車に揺られ、聴き慣れない名前の駅で降りた。
スマートフォンの地図アプリを使い、目的地へと向かう。
見知らぬ土地に恐怖を感じたが、彼女に二度と会えないことを想像すると自然と歩が進んだ。
20分ほど歩くと地図アプリが目的地を知らせてくれた。
そこは見知らぬ大きなビルであった。
私はこのとき狐につままれたような気分というのを初めて味わった。
恐る恐る自動ドアを開ける。
受付のお姉さんに緊張しながらたどたどしく、自分の名前と自分がここに来た理由を話した。
「そこのソファーにお掛けになって少々お待ちください・・・。」受付のお姉さんは私の緊張をほぐすように優しく微笑み私は促されるまま慣れない妙にふかふかのソファーに腰掛けた。
視線の先に鳥の大きな銅像が見えた。
「何の会社だろう・・・。」
後ろからこちらに近寄る足音が聞こえる。

9.こちらに近づく足音に気づき、振り返ると見知らぬ白衣を着た30代ぐらいの男性が笑顔でこちらに向かってくる。
なぜか肩にインコを乗せて・・・。
なんだか見たことのある顔だと思った。自分の記憶を必死に思い起こす。
肩のインコと自分の記憶を思い起こし、彼が誰なのかようやく気が付いたときには、すでに彼は私の対面のソファーに腰かけていた。
「やあ~。はじめまして。私は柳田浩司といいます。君は、瀬戸亜里沙君だね。」
テレビや雑誌でよく見かける有名人に不意に自分の名前を呼ばれ、状況の把握ができず、なんとか上擦った「はい。」という返事と肯定する頷きをするので精一杯だった。
「状況がわかないのもしかたないよね。君が来るのはなんとなく想像できていたんだ。虹村くんに会いに来たんだよね?」
私はまた頷く。
彼は静かに話し始めた。

10.柳田教授の話を聞き終えた私は、まるでこれは夢ではないかと思いながら夕暮れが近づく見知らぬ道を駅へと向かった。
教授の話によると虹村さんが私の学校に転校してきたのは、4月に教授たちの進めたいじめ撲滅計画といじめ撲滅法案のためであった。
ネットや学校裏掲示板、SNSなどの情報を元に全国のいくつかの学校へといじめ調査員たちが転校生として派遣された。
そして、虹村さんもその一人であった。
つまり、その年から全国の学校で、転校生が不自然なほど増え、そして、その転校生たちは学生ではなかったのだ。
その転校生の目的は、学校でのいじめを生徒に紛れ探し、見つけた場合やいじめが発生した場合は、自分がいじめの標的となったりして、その問題を解決するよう努めるとともに、柳田教授の率いるインコの会に報告することであった。
その報告内容に応じて、いじめっ子たちをインコの会が運営する更生学校に強制的に入れるシステムとなっているそうだ。
卒業式になぜか参加しなかった彼女たちもせっかく合格した県内有数の進学校の内定がなくなり、その代わりとしてインコの会の更生学校へと強制的に入校させられたと言っていた。
あれだけ、進学校への合格を自慢して歩いていた彼女たちがほかのクラスメイトに合わせる顔がなく、卒業式に訪れなかったのだと私は納得した。
もちろんその年1年間だけでことではなく、一年目は仕方なく転校生として送り込んだが、翌年からは新入生に紛れ込ませたらしい。
調査員というよりはスパイのようだと思った。

11.柳田教授は、虹村さんのそして、調査員たちの正体も教えてくれた。
彼女たちの多くは、昔壮絶ないじめにあった被害者たちであり、柳田教授が開発した成長抑制法を自ら受けた者たちあった。
その成長抑制剤は、服用から20~30年の間に副作用で多臓器不全を100%患い短い生涯終える代わりに服用したときから一切年を取らないと言う。
ふと以前に聞いた纏足の話を思い出す。
無理やり体の成長を止めて体に良いわけがないと思った。
それを楽しそうに話す目の前の白衣の男性がとてつもない狂気を持った人間に見えた。
そして、復讐の為か、それとも純粋にいじめを根絶するためなのか、自分と同じ思いをする人間を作らないためか自らその命と人生を捧げるいじめ調査員という人たちにも同じ狂気を感じた。
虹村さんは、壮絶ないじめが原因で自殺をして一命を取り留めたところを柳田教授に声を掛けられたそうだ。
彼女が夏でも厚い黒タイツを着用していたのはいじめにより、足に大きなやけどを負ってしまいその傷を見せないためであった。
なぜ、そんな重大なことを私に彼が話してくれたのかは、すぐにわかった。
私にも虹村さんと同じ調査員に勧誘するためだ。
調査員は、20~30年しか生きられない。
それに今後、いじめがなくなればなくなるほど調査員が少なくなるのは明白だ。
私は怖くなった。
柳田教授の誘いを丁重に断り、出口へと向かった。
柳田教授は怒るわけでもなく「そうか。残念。今日聞いた話も虹村くんのことも忘れた方がいい。そして、高校では良い学校生活を送れるといいね。」と引き留める様子もなく笑顔で答え出口まで私をエスコートしてくれた。
帰り際になぜか「そうだ。お母さんによろしくね。」と言って笑った。
そして、結局私は虹村さんにその後会えることはなかった。

家に帰ると母が私の卒業アルバムを見ながら帰ってきた私に「おかえり」と言った。
私にたわいない事を聞きながらページを捲る。
私は、それに気のない返事で答える。
さっきまで楽しそうに見ていた母が急に静かになり、不審に思い視線を送ると凍り付いたような顔をして一番後ろの一人一人の写真と名前が載ったページを見ていた。
その視線の先には、虹村さんがいた。
私はなんだか怖くなり、2階の自分の部屋へと向かった。
ベットへ横になり、教授の話や虹村さんのこと、母の卒業アルバムを見る顔について考えを巡らせていると眠りについていた。
目が覚めたのは、深夜だった。
時計を見ると2時を回っていた。
トイレに向かおうと部屋を出ると一階に電気が付いているのに気づいた。
すすり泣くよな声と何かを繰り返しつぶやくような声が聞こえる。
そっと物音が立たないように階段を下りる。
「ごめんね・・・ごめんね・・・陽子ちゃん・・・ごめんね。・・・陽子ちゃん・・・陽子ちゃん」
母がダイニングのテーブルに座り、卒業アルバムを見つめ泣きながら私の知らない名前を繰り返し呼んでいた。
ふと、柳田教授が「母によろしく。」と言っていたことを思い出す。
もしかしたら、虹村さんの本当の名前は陽子で、母が教員時代に受け持った生徒ではないかと私は考えたくない想像を膨らませた。
彼女を救えなかったことで、母は教師を辞めたのではないかと思った。

次の日の朝、起きると母はいつものと変わらぬ様子で朝食を作っていた。
「おはよう。」無理に笑顔を作り母に向け私は言った。
「おはよう。」少し枯れた声で母が答えた。
いつもと違うのは、その目が泣き腫らした赤い目をしていることくらいであった。
私は、母に真実を聞く勇気がなくいつも通り接した。
時が経ち、私が自分で辛い中学生活のことを打ち明けれる日が来たらきっと母も彼女の心の奥底にしまった陽子さんとの思い出を話してくれるだろうと思った。
そして、それは、きっと今ではない。

12.はじめて教室に入る瞬間はいつもドキドキしてしまう。
周りは知らない人だらけ、皆が自分を値踏みしているような感覚に襲われる。
お腹の奥からむかむかとしたものが込み上げてくる衝動に襲われぐっと堪える。
黒板の座席表を確認し、自分の席に着く。
私の席は窓際の一番後ろ、自分の席へ座ると少し気持ちが安らいだ。
手持無沙汰で、本でも読もうかと思っていると「ねぇねぇ、これ可愛いね~。」ふと横から声がした声の方へ顔を向ける。
隣の席に座る私と同じ真新しい制服を着たポニーテールの子が私のバッグに付いている見る角度によっては不細工に見える猫のキーホルダーを指差し愛らしい笑顔で言った。
「私、愛音よろしくね。」彼女の簡単な自己紹介を受け、私もそれに続けおうむ返しのようなたどたどしい自己紹介をする。
それから、担任が教室に入ってくるまでたわいもない話を彼女とした。
少なくとも、私の高校生活のスタートは、中学ほど悪くはない予感がした。
これも虹村さんに出会えたからかもしれない。
校庭に咲く桜のピンクが以前より色鮮やかにまるで世界が私を受け入れてくれたような優しい色合いに見えた。
きっと、どこか私の知らない土地にいる彼女もこの時期に咲くピンクの花を教室から眺めているのだろうか?
その傍らに誰かが寄り添っていることを私は願う。


~fin~


秋田県ランキングへ
↑1日1クリックで応援お願いします。

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村
↑1日1クリックで応援お願いします。




スポンサーサイト

Newest

Comment

Leave a comment

Designed by Akira.
Copyright © 日々の名残り~The Remains of the Days~ All Rights Reserved.